2008年7月8日火曜日

東京ディズニーリゾートは、Twitter APIによる思い出サービスを提供

 大手企業がTwitterを活用している最近の興味深い事例としては、5月19日から開始したディズニーワールド&東京ディズニーリゾートによるTwisneyがある。Twisneyは、名前を見てもTwitterとDisneyを組み合わせたことがすぐにわかるように、Twitterを応用して、ディズニーワールド&東京ディズニーリゾートからライブ情報を発信する仕組みだ。


 Twisneyは運営側からの情報発信ではない。東京ディズニーリゾートにいる顧客が、あたかもTwitterの会員であるtwisneyjpに宛てて「@twisneyjp スペースマウンテン、今から乗ります」というようにつぶやくだけで、そのつぶやきが東京ディズニーリゾートのマップやリストに表示されるようになる。なかなかすぐれものの思い出サービスというわけだ。


 Twitterに慣れていない人なら、ケータイで撮影した写真とメッセージを所定のアドレスに送るだけでも、Twisneyが利用できる。


 掲載メッセージはマイクロソフトの地図検索サービス「Virtual Earth」で地図上にも反映できるし、さらに掲載写真は写真共有サービスFlickrにも投稿されている。Twisneyは、絵に描いたようなWeb2.0サービスと言っていいだろうし、マッシュアップの典型的な活用だとも言える。


 Twisneyのように、Twitter、Virtual Earth、Flickrといった各種のサービスをマッシュアップできるのは、API(Application Programming Interface)として、サービスの基本部分をプログラム的に利用できるように公開しているからだ。しかも、各種のマッシュアップの基本がTwitterであることが重要だ。


 Twitterは普通にWebページから見ていると、つぶやきをまとめたミニブログのようだが、このWebページの表示は、標準的なサービスというより、Twitter APIの一つの表現にすぎない。つまり、Twitterの本体はAPIであって、むしろ各種のマッシュアップに利用する可能性のほうが本質になる。


 いつもながら気になるのは、これがどういうビジネスモデルになるかだ。恐らくTwitterはGoogleなどの大きな資本への売却を想定しているのだろうが、その価値を高めるビジネスモデルは自分たちで模索していかなくてはならない。しかし、いくらマッシュアップが面白いからといって無料のサービスではどうだろうか。そう疑問をもったとき、実はすでにNHK_onairではNHKの広告、そしてTwitterではDisneyと共同サービスというビジネスの展開をしていることに気が付く。


 Twitterの可能性を企業の各種サービスに組み込むという新しいビジネスモデルがすでに見えつつあるのだ。



Twisneyでは、東京ディズニーリゾートで楽しんだ顧客の情報をTwitterのAPIを使い地図上に表示する。このサービス、本国のディズニーランドについてで二番目に東京ディズニーリゾートで開始された。

2008年7月2日水曜日

GoogleはDoubleClickを買収したこで広告ビジネスを強化した

 Googleがインターネット広告の世界で、プライバシー情報を蓄積しないと言明し、あたかも善なる世界を志向する背景には、DoubleClickの買収にまつわる欧州連合(EU)へのメッセージがあるのだろう。買収計画が発表されたのは昨年の4月だが、当初EUはインターネット広告市場におけるGoogleの力が不当に強まることで消費者がプライバシ侵害のリスクにさらされるという懸念から、GoogleのDoubleClick買収を許可しないのではないかと見られていた。だが今年に入り、3月11日欧州委員会は業界関係者の意表を突くように買収を承認した。挙げられている理由として、GoogleとDoubleClickが競合ではなかったという認定もあり、この経緯はオライリー氏のWeb2.0の図式を思い出すと味わい深い。彼は、Web1.0の代表をDoubleClickとし、Web2.0の対比にGoogle AdSenseとしていた。

 GoogleがDoubleClickを買収したということは、最新のWeb2.0がWeb1.0に勝利したと見ることもできる。だがより広いインターネット広告市場へワイルドに展開してきたDoubleClickのもつ潜在的な収益拡大の可能性を、Web2.0的なきれいな言葉でラッピングし直したと見てもよいだろう。

 また欧州委員会は今回の承認で、Microsoft、Yahoo!、AOLがこの市場のライバルとなるとも指摘しているのだが、この部分については業界では、Yahoo!とMicrosoftの融合を後押しするものではないかとも見られていた。現時点ではこの融合は失敗していることもあり、DoubleClickを飲み込んだGoogleに一息の余裕を与えることになった。意地悪な見方だが、GoogleとしてもここはやはりEUに忠誠を示すような発言をしたいし、むしろインターネット広告業界に「悪をなすな」というGoogleのルールを強いることでGoogleの優位を保ちたいだろう。

 表向きはきれいなGoogleの発言に合わせて、DoubleClickを使ったGoogleの本格的な広告ビジネス展開も急速に目立つようになってきた。4月2日にはDoubleClickの検索エンジンマーケティング(SEM)事業を売却すると発表し、人員整理も行われる。

 さらに注目したいのは、5月19日に広告のためのネットワークをサードパーティーに開放する決定をしたことだ。これによって、Googleに認定されたパートナー企業が自前で広告の展開やクッキーを使った消費者の追跡が可能になる。この展開は表向きにはGoogleの広告技術の進歩の結果と見ることができるが、むしろDoubleClickが囲ってきた顧客をそのままGoogleの収益モデルに誘導することができるという意味で素早い買収効果の発揮になる。

 これまでのGoogleは投資に見合った収益が今後どのように期待されるのか疑問になっていたり、検索やクラウドコンピューティングの技術が技術が喧伝されるわりに実際は広告屋ではないかと言われてきたものだった。ここに来てようやく本格的に新時代の広告屋としてのキバを剥き始めることになる。消費者やEUなど統合国家に対しては、Web2.0の善の衣装を見せながらも、従来の広告市場にとっては次第に大きな脅威となってくるだろう。テレビや新聞といった旧メディアもその屋台骨は広告に依存しているのであり、それがGoogleによって削られることになる。