2008年6月29日日曜日

Googleは広告業で新しい収益モデルを確立するために「善」を目指す

 目まぐるしく進化するインターネットの世界では、Web2.0というキーワードも古くさいと感じる人がいる。「今はWeb3.0ではないのか?」といった冗談も聞かれる。最初からWeb2.0は意味のないバズワードだという人もいる。Web2.0の考え方はクラウドコンピューティングやウィキノミクスといったキーワードへ、より詳細に分解されたとみることもできる。だが、Web2.0の提唱者ティム・オライリー氏は、4月22日から25日にサンフランシスコで開催されたWeb 2.0 Expoの講演で「Web2.0はまだ終わっていない(Web 2.0 Is Not Over)」と明言した。理由はいくつかあるが彼は、Web2.0的な技術は先行しているものの、Web2.0の理念は企業活動にまだ深く浸透していないと見ているからだ。オライリーの予言に合わせるように、従来技術先行型と見られてきたGoogleも、企業の収益の根幹にWeb2.0の理念とも関わるオープンな信頼性を強く打ち出しはじめた。だがそれには裏がありそうだ。

 5月19日にイギリスのハートフォードシャーで、イギリスのブラウン首相も交えて開催されたGoogleツァイトガイスト会議で、Google創設者のセルゲイ・グリム氏とラリー・ページ氏は、SNSなどで個人を会員として囲い込んだインターネット企業が、過度にターゲット広告を展開することの危険性を訴えた。彼らの考えでは、インターネット広告事業の新展開に焦って利用者からの信頼性を失うことになれば健全なビジネス展開が期待できないというのだ。さらに、Googleのモットーである「悪をなすな(Don't be eveil)」も付け加えた。ページ氏の言葉を借りるなら、「この世界をより本質的に善なるものになるように再発明しよう(to prove to the world that we can reinvent [ourselves] to create substantial good)」ということだ。なんだかスターウォーズの世界観のようだが、ようするにインターネット広告の世界のことだ。

 なぜ善悪がインターネット広告の世界で問題になるのか。それは現在のインターネット技術では、クッキーと呼ばれる技術を使って、誰がどのようにインターネットを利用しているかについて追跡ができるためだ。これに会員認証を組み合わせて蓄積していけば、特定の個人がどのような性向を持っているまでわかるようになり、個人の心を射止めるような広告を提供することも可能になる。

 だがGoogleはそうした技術はむしろ人々を怯えさせ、信頼を損ねてしまう危険性があり、新しい広告ビジネスの弊害になるというのだ。別の言い方をすれば、Web2.0の信頼を元に新しくインターネット広告ビジネスの展開が可能だという自信の表明でもある。

 すでにGoogleは昨年の時点で、個人情報に関わる可能性のあるクッキー情報の蓄積を18か月に限定すると明言している。インターネット広告ビジネスに繰り出そうとする他企業に対して、Googleが「善」を言明することで、インターネット広告業界全体にクッキー情報の蓄積を放棄する圧力になるだろう。さすがは善なる世界を目指すGoogleだと言いたいところだが、これにはやむをえない理由がある。


BBC(英放送協会)によるとイギリスのハートフォードシャーで開催された会議ではマイクロソフトとGoogleの関係も問われた。